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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)16037号 判決

原告 斎藤行雄

〈ほか二二名〉

右二三名訴訟代理人弁護士 髙橋美成

同 青木秀樹

被告 片山省三

右訴訟代理人弁護士 野呂瀬長美

主文

一  被告は、原告らに対し、別紙請求金額一覧表記載の金員及びこれに対する原告大森茂市を除く原告らについては昭和六一年二月九日から、原告大森茂市については昭和六一年八月三一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴を却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  全国便利屋連合会の組織

被告は、全国チェーンの便利屋の組織である全国便利屋連合会(以下「連合会」という)と称する団体の主宰者である。

同会は、全国便利屋連合会本部をトップとし、その下に各県毎に、県総本部―特別本部―事業本部―管理センター―指導センター―エコーサービス店(実際に便利屋として活動する店)を順次配置するというピラミッド型の組織となっていた。そして、連合会に入会する者は、右の各ランクに応じて一定額の権利金を支払うこととなっており、既に入会した者がその者のランクより下位のランクの者を新たに入会させれば、その権利金のうち一定額が、被告を経由して、入会させた者に支払われるので、自己の支払った権利金の額を上回る金員を得ることができるとされていた。また、毎月一定のロイヤリティーがエコーサービス店から上位のランクの者に対し、そのランクに応じて分配されることになっていた。

2  原告らの入会

被告は、昭和五九年頃全国各地で連合会の説明会を開き、便利屋は誰でもでき、しかも儲かる、マスコミでも盛んに取り上げられている、全国便利屋連合会はこの便利屋という業種を全国チェーンの組織としたものであり、発足後間もないが、既に多数の県において数千名が開業しており、下位のランクの者を入会させたり、エコーサービス店からのロイヤリティーが入って来るようになれば、多額の収入が得られるなどと述べて、入会者の勧誘を行った。

原告らは、それぞれ被告の右説明内容を信じて、別紙支払一覧表のとおり、各ランクに入会するための権利金を被告に支払った。

3  詐欺による勧誘(不法行為その一)

ところが、被告は、右のような説明会を全国各地で行って権利金を多額に集めるや、何ら具体的な指導をしないまま、昭和六〇年初め、連合会の組織作りを放棄して原告ら入会者の前から姿を消してしまった。すなわち、被告は、当初から全国チェーンの便利屋組織を作りあげて運営する意欲など全くなく、またそのような能力も全くないのに、それがあるかのように装って原告らを欺罔し、被告の説明を信じて入会した原告らから、権利金を詐取したものである。

被告は、連合会の事業を行う前にも、国民福祉友の会、ニュービジネスジャパンといった連合会と同様のネズミ講方式の金集めを行い、全国的に多数の被害者を出し、全国各地で被害者から民事訴訟を提起されているほか、連合会の組織作りを破綻させた後にも、全国共同仕入れセンターといった同様の事業を始め、新たな被害を出しているのであって、被告の行為が詐欺に当たることは明白である。

4  公序良俗に違反する組織への勧誘(不法行為その二)

連合会は便利屋を営業するための組織としての実体を有しておらず、むしろその組織作りと称して、他の者を下位のランクに勧誘、入会させることにより、その入会者から自己の支払った入会金額をはるかに超える多額の金員を短期間に取得できるという集金過程自体が目的となっている。右組織は、下位ランクになる程その勧誘が困難になり破綻を来すことは必至であり、また利益の大きい上位のランクに入会するためには高額の入会金を支払わなければならず、勧誘に失敗した場合にはその被害は深刻なものにならざるをえない。

このような仕組みは、いたずらに人の射幸心をあおり、ひいては健全な勤労意欲を阻害するものというべきであるから、その反社会性は著しく高いものといわざるをえず、右のような組織への勧誘を行うことは不法行為となる。

よって、原告らは、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、別紙請求金額一覧表記載の金員及びこれに対する原告大森茂市を除く原告らについては訴状送達の翌日である昭和六一年二月九日から、原告大森茂市については同人に対する訴状送達の翌日である昭和六一年八月三一日から各支払済みに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、被告が連合会の主宰者であること、「権利金」、「一定額が入会させた者に被告を経由して支払われる」との部分は否認し、その余の事実は認める。

2  請求原因2の事実中、「誰でもでき」「数千名が開業している」との部分は否認し、原告らの入会の点は不知。その余は認める。

3  請求原因3の事実は否認する。

4  請求原因4の事実は否認する。

三  被告の主張

1  本案前の主張

被告は、昭和五九年一一月に、訴外株式会社ニュービジネスジャパン又は連合会の加盟者である訴外柏田勝義他三名と交渉を持ち、同月二六日、ニュービジネスジャパン及び被告と同人らとの間において、①柏田らがニュービジネスジャパン及び連合会の事業を当時の加盟者全員のために承継し、かつ、全国組織員とニュービジネスジャパンとの間の債権債務の一切を引き継ぐ、②本契約に基づく事業資金その他一切の和解金として、被告は柏田らに対し、即時、現金六〇〇〇万円を一括して支払う、③柏田らは被告に対して福岡地方検察庁に提起していた刑事告訴を取り下げ、その余の告訴人についても告訴を取り下げさせることを保証する、④当時、ニュービジネスジャパン及び連合会の全国組織員として加盟していた者は、将来、被告に対して民事訴訟を提起しないとの和解契約を締結した。

柏田は、昭和五九年二月二六日から開かれたハワイでの研修会の際に連合会の全国組織員の代表である理事長に選出されており、他の三名も同会の全国組織員を代表して和解契約を締結した。

原告らは、前項の和解条項にいう全国組織員であるから、被告との間の不起訴特約があることになる。

2  本案に関する主張

(一) 詐欺の主張に対する反論

被告が推進していた連合会の事業は、全国的な規模でのフランチャイズシステムによるピラミッド型の組織作りをし、この組織完成後に便利屋を事業として活動し、さらにその収益金を福祉施設に還元することを目的としたものである。

被告は、右目的を実現するため、全国各地で多額の費用と長時間をかけて説明会・研修会を開催し、さらに、便利屋として活動するためのノウハウともいい得る冊子・パンフレット等を作成して会員に頒布している。また、現実に便利屋事業について着用するユニフォーム及び各家庭に頒布するパンフレットも用意している。そして、九州地区では、軽運送・貸机・共同オフィス等を行う便利屋が現実にかなり稼働していたものである。したがって、被告は連合会の組織を作る意思も能力も有しており、これがないというのはいいがかりにすぎない。

被告が連合会の事業から手を引いたのは、次のような理由による。すなわち、昭和五九年五月に連合会を含む被告の事業がマスコミによって批判的に取り上げられ、また「被害者の会」と称する団体のメンバーが被告を福岡地方検察庁に告訴したりしたため、連合会等の加盟組織員が不安、混乱に陥って組織作りを放棄した。他方、被告は各地区で具体的かつ詳細な説明会を実行していたにもかかわらず、一部の組織員が暴力団風の者を同行して会場を混乱させたほか、被告の事務所を襲って、女性事務員を不法監禁して刑事事件となるなどの事実が相次いだ。そのため、被告としては、前記の和解契約により原告らの代理人又は代表者である柏田ら四名に事業そのものを委譲したうえ、これらの妨害から開放される自衛手段として、被告自身の連絡先を明らかにしなかったものである。したがって、被告が組織作りを放棄したものではなく、理由もなく連絡先を秘匿したものでもない。

(二) 公序良俗違反との主張に対する反論

連合会が新規入会者の支払った入会金の一定割合を上位の者に配分する趣旨は、あくまでも、全国チェーンとして展開しようとする全国便利屋連合会の組織を、できるだけ短期間に、しかも確実に完成させるためであり、決して集金過程自体を目的とするものではない。

また、下位のランクになるほど入会金は安くなるから、下位に行くほど勧誘が困難になり、組織の破綻が必至であるとはいえない。入会者は、あくまで自己の責任で組織を拡大すべきものである以上、もし勧誘に失敗しても、自業自得としてその損害を甘受すべきである。

(三) 過失相殺

原告らは、被告の説明によって、連合会の組織や加盟者が自己の責任で下位のランクの者を入会させねばならないこと等について十分な認識を得たうえで、連合会に入会したものであるにもかかわらず、自ら組織拡大を行おうとしなかったために連合会の建設が頓挫したのである。また、仮に被告側の説明、解説等に不穏当な部分があったとしても、原告らは、被告の真情を適切に評価し得る成人であり、被告の言動をそのまま信じたというだけでは、却って非常識又は軽率であったことを否めないのであるから、仮に原告らに損害があったとしても、被告だけの責任とするのは酷であり、原告らの実質的な損害額の五割を減ずるべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  本案前の主張について

和解契約の締結については不知。柏田らが原告らの代表であるとの点は否認する。

被告の主張する和解契約なるものは、九州地区の被害者の一部とのものであり、仮にそのような契約があったとしても、原告らは全く関与していない。

2  本案に関する主張について

全て争う。

第三証拠《省略》

理由

一  本案前の抗弁について

被告の本案前の抗弁の事実中、柏田ら四名に、連合会の会員を代理して被告との間で連合会に関する紛争につき不起訴合意をする権限があったことを認めるに足りる証拠はない。

なお、被告は、柏田が理事長である旨供述し、また《証拠省略》によれば、被告が、ハワイにおける研修会で柏田が全国組織の代表に選出された旨別件訴訟において供述していることが認められる。しかし、右供述の信用性如何は別として、そもそも右供述によっても代表者の具体的権限が全く明らかでない以上、全国の連合会の加盟者に代わって不起訴合意をする権限が柏田にあったとは到底認められない。

したがって、その余について判断するまでもなく、被告の本案前の主張は理由がない。

二  連合会の性格について

原告らは、連合会の実体は加盟者からの集金それ自体を目的とする組織であると主張し、被告は、連合会は集金過程自体を目的とした組織ではなく、フランチャイズ組織であり、便利屋の全国的チェーン化を目的としたものであると反論するので、これについて判断する。

1  当事者に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

連合会は、全国総本部を東京都に置き、栃木県、埼玉県、静岡県、福岡県及び京都府などで活動を行っていた。

連合会の組織は、東京に設けられた全国総本部を頂点として各府県ごとに総本部を置き、その下に五ランクないし七ランク程度の組織をもつピラミッド型の構造をしていた。例えば、埼玉県においては、別紙「埼玉県組織表」のとおり、県総本部、A特別本部長、B特別本部長、事業本部、管理センター、指導センター、エコーサービス店という七段階に分かれていた。

これらのランクについては、その入会金及び府県ごとの員数が一応決められており、連合会に加入しようとする者は、定められた額の入会金を支払うことにより、いずれかのランクに入会することができた。所定の入会金を支払って連合会の組織員となった者が自己の直接下位のランクに他の者を入会させた場合には、別紙「下位ランクの加盟者募集による収益表」のとおり、その者が支払う権利金のうち八割程度の金員の配分を受け、自己の下位ランクの者がさらに下位のランクの者を入会させたときにも一定割合の金員の配分を受けることができた。

なお、入会者は、自己の下位のランクに他の者を勧誘・入会させねばならないが、説明会の費用を被告に交付すれば、自己の主催する説明会で被告に説明をしてもらうことができるとされていた。

このようにしてピラミッド型の組織が完成した後に末端組織であるエコーサービス店が現実に便利屋としての活動を開始した場合には、その収益の一部を上位のランクに属する組織員がロイヤリティーとして取得することができるとされていた。

2  右事実及び後に認定する各事実によれば、連合会の組織に関し次の点を指摘することができる。

(一)  組織の過度な巨大性

連合会の埼玉県組織が完成するためには、別紙「埼玉県組織表」のとおりエコーサービス店が五万六〇〇〇店も必要となり、A特別本部長から指導センターに至るまでの上部機関の定員総数も三五〇〇名を超えることになる。埼玉県一県だけでこのような膨大な組織が形成されることになると、全国に組織を完成させるためには、優に一〇〇万店を超えるエコーサービス店が必要となる。

これは、組織の規模として異常に巨大なものといわざるをえず、現実に事業が行われることを念頭に置いて作られた組織と認めることは困難である。

(二)  組織内権限分配の曖昧さ

被告は、組織建設の段階のピラミッド型組織は実際に便利屋の活動が始まってからも維持され、右組織形態のままで活動が行われる旨供述する。また、組織の各段階には権限の分配を窺わせるような名称が付されてもいる。しかしながら、具体的にどのような権限がどの組織に分配されるのかについて、被告は、ピラミッドの中間段階にある各種組織はいずれも総本部の意思の伝達機関であると述べるだけで、事業展開に必要な各種権限の分配については何ら具体的に供述しない。また、原被告双方の供述によれば、各段階の加盟者を入会させるにあたって、当人の適性・能力・経験等を十分に検討したうえで入会させたような事情は窺われず、もっぱら支払い得る金額の多寡により加盟する組織の段階が決められていることが認められる。

さらに、被告は、連合会がフランチャイズ組織であることの一つの根拠として、各加盟者が一定の地区についての独占的な営業の権利をもつ旨供述するが、加入者の権利の地域的範囲は本件全証拠上によるも一向に明らかでない。

このような曖昧さは、実際に事業を行おうとする組織では到底考えられないものというべきである。

(三)  事業内容の曖昧さ

他方、チェーン店化による全国展開が成功するためには、事業に関する高度のノウハウの蓄積が不可欠であると考えられる。これに関し、被告は便利屋として活動するためのノウハウとして「便利屋家業のお誘い 入門編の巻」などと題したパンフレットを作成した旨供述する。しかしながら、右パンフレットの内容は、主に便利屋の可能性等を抽象的に述べたものであったり、単なる料金表であったり、簡単な組織内規則であったりするだけであり、分量も数頁から二〇頁程度のものにすぎない。また、「入門編」以上のものが証拠に提出されているわけでもない。

また、被告は、便利屋のノウハウを得るために、昭和五七年春頃に被告自身で三か月ほど便利屋に専心し、それから連合会の組織建設を行い始めたと供述するが、右程度の短期間に全国展開を行い得るほどのノウハウの蓄積が可能になるとも考えられず、また前記パンフレットの記載以上のノウハウが得られたことを窺わせる事情もない。

してみれば、フランチャイズ化に不可欠な営業ノウハウの蓄積は殆どなかったものと認められる。

なお、被告は、既に九州では便利屋が営業を始めていたと供述し、これに添うような書証もある。しかしながら、右散らし等は印刷物に過ぎないし、新聞記事も、その内容は実際の営業を取材したものではなく、連合会側のいうところをそのまま記事にしただけのものであるから、いずれも具体的な活動が活発にされたことを示すものではない。他方、被告は、帳簿、顧客台帳、ユニフォーム等具体的に営業がなされたことを裏付けるに足りる証拠が存在すると供述するが、訴え提起後五年を経過しようとする現在に至るまでそれら証拠は何ら提出されていない。このことと、先に認定した一連の事情とに照らすならば、被告の右供述はたやすく信用できず、他にエコーサービス店の営業が組織として行われていたことを認めるに足りる証拠はない。

(四)  組織建設の先行

連合会は、基本的には、上位ランクの管理組織から全国組織を作っていき、これが完成した後に具体的営業を行う全国チェーンの便利屋の営業を開始するとしていたものである。しかしながら、一般的にチェーン店化を行う場合、直営店舗等による実績の積み重ねを行ったうえで行われるのが通常というべきであり、右のように、どの地域においても具体的営業活動が本格化していないような段階で、いきなり全国単位の管理組織の建設を先行させることは、事業展開の方法として通常考えられないものというべきである。

3  以上の事情を総合考慮すれば、連合会は、便利屋を営業するための組織としての実体を何ら有しておらず、むしろその組織作りと称して、その過程において他の者を下位ランクに勧誘・入会させることにより、その入会者から自己の支払った入会金額をはるかに超える多額の金員を短期間に取得できるという集金過程自体が目的となっているものと認めるのが相当である。

三  不法行為の成否について

1  破綻の必然性

《証拠省略》によれば、連合会に加盟する者らの殆どは、それまで便利屋の経験があったわけでも、また連合会のような組織作りの経験があったわけでもないこと、原告らはいずれも被告の説明を聞いて連合会に加盟しており、また説明会を開いた者はいずれも被告に説明をしてもらっていること、他の説明会も殆ど被告の説明にかかるものであったことが認められる。

右認定の事実によれば、加盟員は建前上自己の責任により下位のランクの加盟者を集めることにはなっているものの、実際は説明会費用を被告に支払って被告に説明をしてもらい、それにより自己の下位のランクの加盟員を募集せざるをえず、組織建設の可否如何は、事実上被告の説明活動に負っていたものというべきである。

なお、右各証拠によれば、加盟者の一部はハワイないし熱海において、被告による研修を受けたことが認められるが、《証拠省略》によれば、右いずれの研修内容も「努力しなければ事業は成功しない」「失敗したからといって連合会に対し不平はいわない」といった旨の精神論が主であり、また期間も二日から四日程度であったことからして、右研修が独力で組織作りができるよう加盟員を養成するだけの内実を持ったものであったとは到底認められない。

他方、《証拠省略》によれば、加盟者が説明会を開くに際して被告に支払わねばならない説明会費用は説明会一回につき三〇万円程度であったこと、一回の説明会で一人も加盟者が得られなかったことも多く、仮に得られた場合でも一回の説明会で一人か二人加盟するかどうか程度であったことが認められる。

したがって、先にみたように埼玉県一県当たりでも組織完成のためには六万人近い定員が必要になることからすれば、下位ランクにおいては膨大な数の説明会と莫大な説明会費用の支出が不可避となるから、説明活動は極めて困難になり、ひいては組織建設が困難になることが明らかである。

また、エコーサービス店は、下位ランクの加盟員を入会させることによる利益を持たず、もっぱら便利屋の営業により収益を上げるほかないものであるところ、便利屋の営業に関する具体的構想やノウハウを有しない連合会に対して一五万円もの金員を支払って加盟する人間が前述のように多数いるとは通常考えられない。この点からみても、組織作りが末端段階に近付くほど困難になるといわざるをえない。

以上の事情によれば、連合会の組織建設がいずれ破綻することは必至であったというべきである。

2  被告の勧誘方法

《証拠省略》によれば、被告は、連合会の説明会を開くに際し、まず、地元新聞の求人案内欄に全国便利屋連合会のチェーンを作るので会員募集のための説明会を開く旨の記事を載せたり、あるいは「テレビ、ラジオ等で続々取材」「各界が注目サービス産業の切り札」「損をさせない。おそるべき収入」「資金後日全額返還」といった記載のある同趣旨の折り込み広告を入れていたこと、説明会場に行った者に対しては、

(一)  自分は金儲けの天才、組織作りの天才といわれ、本も出しているし、テレビ番組のアフタヌーンショーに出演するなどマスコミにも取り上げられている(なお、検証の結果によればアフタヌーンショーに出たことがあるとの説明は虚偽であることが認められる)。これまで「国民福祉友の会」「ニュービジネスジャパン」などの組織を作るのに成功している。被告の子は重度身体障害者であって、被告はこれら事業によってあげた収益は福祉のために還元してきた。便利屋であげた収益も福祉に還元するつもりであり、障害者のための施設を作りたい。これらの事情については被告のことを書いた「福祉商法の戦士」という本を読めばよくわかる。

(二)  便利屋は、誰でも出来るし、将来数千億産業に発展する可能性のある有望な産業であり、連合会は、ダスキン、ヤクルト、小僧寿司などと同様に便利屋を全国チェーンとしたものである。既に九州では会員が急増しており、便利屋として開業も始まっている。便利屋に関するノウハウも研究しており、チェーン店化により全国統一の賃金表を作成するなどのシステム化が可能となる。入会すれば、ノウハウを伝授することもできる。

(三)  現在、群馬、埼玉、静岡等の地域はまだ未組織であり、組織作りをするために会員を募集している。各ランク毎に定められた権利金を支払えば入会できる。入会者は自己の直接下位のランクに四名から二〇名程度の定員の組織があり、そこに会員を入会させる義務を負うが、入会があった場合、入会者の支払う権利金の八割程度を得ることができる。また、自分より下位ランクの入会者がさらに下位のランクの入会者を得た場合、その者の支払う権利金からも一部分配を受けられる。したがって、数人入会させれば、出資額をはるかに上回る金員を取得することができる。さらに、エコーサービス店が営業を始めた場合、ランクに応じて月々三〇万円から五〇万円程度のロイヤリティーを得ることができる。

(四)  入会者は、自己の直接下位のランクへ新たに会員を入会させる義務があるが、入会者自身が上手に説明するのは難しいから、説明会を主催する費用を出してくれば、被告が説明会へ行って説明してやる。被告を信用してやれば必ずうまくいく。毎日どんどん会員が増えており、すぐに入らないと入れなくなることがあるから、早く入ったほうが良い。加盟に際して入会者が支払った権利金は、要求に応じ、一定額を差し引いていつでも返還する。

といった説明をしていたことが認められる。

3  不法行為

(一)  勧誘方法の違法性

まず、被告が、連合会の組織の実体が金銭配当組織であっていずれは破綻することが必至であるという点については何ら触れることなく、あたかも連合会が真に便利屋の全国組織を作るかのような欺罔的説明を行っていること、また、具体的説明内容自体にも虚偽ないし誇大な説明が含まれていることからして、被告の勧誘行為それ自体が社会の取引通念上許されないというべきである。

(二)  商法としての違法性

連合会の組織建設がいずれ破綻するものであったことは先に述べたとおりであり、その時点において多額の出資金を回収できなくなる者が多数生じることは明らかである。

また、一旦連合会に入会した者は、エコーサービス店の営業活動による収益が期待できない以上、自己の出資金を回収するために、先に述べたような違法な勧誘行為を用いて下位ランクの入会者を集めるほかなく、そうしない限り高額の出資金をそのまま失ってしまうことになる。そして、下位ランクの入会者を集めることになれば波及的に新たな被害者を発生させることが不可避である。

また、連合会の組織は、何ら生産活動を行なうことなく、下位のランクの入会者からの入会金の分配をすることによって利益を得ようとするものであるから、健全な勤労の意欲を阻害する虞を多分に含むものということができる。

以上のような特徴を備えている点において、連合会の組織はいわゆるネズミ講と大差がないというべきであるから、これを企業として存続・拡大するために行った被告の勧誘行為は、それ自体公序良俗に違反する違法なものというべきである。

四  損害について

1  原告らの被った損害について

《証拠省略》によれば、原告ら各自は、少なくとも別紙支払一覧表記載のとおりの金額を出資したことが認められる。したがって、原告らは被告の不法行為により右のとおりの損害を被ったということができる。

2  損益相殺について

被告は、連合会の制度上、加盟者が下位のランクの者を入会させる際にその者の入会金から分配金を得ることになっているから、原告らで右分配金を得た者がある場合には、これを損益相殺として請求額から控除すべきであると主張する。

そこで原告らが得た分配金の有無について検討するに、《証拠省略》によれば、原告北沢俊夫、同直井忠明を除く原告については、下位ランクの入会者を勧誘することのないままに終わっていることが認められる。

《証拠省略》によれば、原告直井は原告小林哲郎を入会させたが、小林から領収した三二万円のうち、三〇万円を説明会費用として直接被告に送金して手もとになく、残りの二万円については、連合会全国本部の事務員である大原政美が受け取ったことが認められ、他に直井が被告から分配金を取得したことを認めるに足りる証拠はない。

《証拠省略》によれば、原告北沢は下位ランクの者三名を入会させたことが認められ、右の者の入会金から何らかの分配金を得ていた可能性もなくはない。しかしながら、分配金についての領収証等は何ら提出されておらず、また具体的な分配手続も明らかでない以上、北沢が分配金を得たことを認めるに足りる証拠はないというべきである。

以上のとおり、原告らが分配金を取得したことを認めるに足りる証拠はなく、したがって、損益相殺を認めることはできない。

3  過失相殺について

(一)  まず、原告らが組織を拡大しようとしなかったために連合会の建設が頓挫したとの主張について判断するに、先に述べたように、連合会の組織拡大を図ることは新たな被害者を増やすことにつながるものと評価できるから、拡大を行わなかったことをもって過失相殺の事由とすることは不合理であり、被告の主張は採用できない。

(二)  次に、被告の説明を軽信したとの点について判断するに、

《証拠省略》によれば、被告は、昭和四〇年代から、日本自動車福祉協会、株式会社エコー、国民福祉友の会、ニュービジネスジャパンといった新会員獲得による収益を伴うピラミッド型の多段階組織を各地で作っていたこと、これらは、交通事故の処理、ミニスーパーといった事業の全国的事業展開を目的として掲げていたが右事業のいずれについても、それが全国展開されるに至っておらず、いずれも中途で組織建設が中断したかあるいは被告が関与を止めていること、各地の入会者から右商法に関して幾つかの訴訟を提起されていたことが認められ、さらに、連合会の組織作りが頓挫した後も、共同仕入れセンターなどといった同様の組織作りを再び行っていることが認められる。これらの事情によれば、被告は、従来から再三にわたり連合会と同様のいかがわしい金銭配当組織を作っていたことが推認できる。

右のように、連合会が被告による一連の金銭配当組織の延長線上にあるものであることからすれば、右商法の違法性は強いものというべきであるし、違法な商法を案出したのも、中心となって組織建設を行っていたのも被告であることからすれば、原告らが、連合会の商法の問題性を認識したうえで入会したか、あるいはたやすく認識できるにもかかわらずこれを認識しないまま入会したような特段の事情のない限り、被告の説明を信じたことにいささか軽率な点があったとしても、これを過失として考慮することは相当でないというべきである。

そして、被告が、先に認定したようにあたかも実際に全国組織の便利屋を行うかのような欺罔的説明を行っていたこと、特に、ダスキン、ヤクルト、小僧寿司といった既存のフランチャイズシステムと同様の組織である旨説明していたこと、連合会の組織は無限連鎖的ではなく、末端には営業を行うエコーサービス店が存在するなどいわゆるネズミ講とは異なった形態になっていること、また便利屋という事業それ自体は当時目新しい事業として話題となっていたことなどからすれば、原告らが連合会の問題性についてたやすく認識できたとまではいえないものというべきである。

してみれば、被告の過失相殺の主張は失当であり、これを採用することはできない。

五  結論

以上のとおりであって、原告らの請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 魚住庸夫 裁判官 菅野博之 小林宏司)

〈以下省略〉

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